企画展について

長浜で生まれ後に一燈園を開き、大正期にベストセラー「懺悔の生活」を著し、偉大な思想家として、今なお多方面に影響を与え続けている「西田天香」。その天香さんと不思議な縁で結ばれ、終生親交を深められた宗教画家「杉本哲郎」は、長浜市民にとって顕彰される人物として決して忘れてはならない存在です。

本年、西田天香が生誕150年、杉本哲郎が生誕123年を迎えるにあたり、改めてその足跡を紐解き、スポットを当てたいと考えました。同時に、その思想に影響を受けインドで活躍しインド初代首相ネルー氏に請われ、首相官邸に壁画「平和」を描かれた杉本哲郎の作品に触れていただきたく、今回の企画展を開催する運びとなりました。

▲イベントに関する紹介動画をご覧ください

長浜城の建設・黒壁などの観光まちづくりの礎を築いた、
長浜名誉市民第1号

西田天香 写真

西田天香(1872-1968)
西田天香は、明治5年(1872)に長浜町屈指の料理商の家に生まれました。
青年期には、開拓事業に臨んで北海道へ渡り、北海道から戻ると求道の生活を歩み、愛染堂(現舎那院本堂、長浜市宮前町)にて悟ったと伝わります。大悟した後、天香は、「無所有・奉仕」の生活を送り、大正2年(1913)には、京都鹿ヶ谷の地に、修養道場「一燈園」が建設されました。
一燈園には劇作家となる倉田百三(1891-1943)や俳人の尾崎放哉(1885-1926)が一時入園した他、陶芸家の河井寛次郎(1890-1966)や日本画家の村上華岳(1888-1939)らが、天香と親交を結びました。
天香の活動や思想は、現在ものちに京都・山科へ移った「一燈園」を中心に脈々と受け継がれています。

西田天香の作品をはじめ、河井寛次郎、村上華岳、棟方志功など、一燈園資料館「香倉院」所蔵の名品を展示いたします。

西田天香の作品(左から:年頭行願 全和鳳画 香倉院蔵/二菩薩釈迦十大弟子(普賢菩薩) 棟方志向画 香倉院蔵/二菩薩釈迦十大弟子(文殊菩薩) 棟方志向画 香倉院蔵/三円相 西田天香筆 香倉院蔵)

滋賀県の戦後文化史を飾る巨大壁画「舎利供養」を描いた、
世界が認める宗教画家

杉本哲郎 写真

杉本哲郎(1899-1985)
杉本哲郎は、長浜出身の父をもち大津に生まれ、明治はじめから昭和期に活躍した京都画壇の重鎮・山元春挙(1871-1933)に絵を学びました。後に、春挙のもとを離れたのち、インド・アジャンター壁画の模写など、古典に学んだ仏画をはじめ様々な宗教を題材にした絵画を残します。
第二次世界大戦中の昭和20年(1945)には、長浜に疎開しており、終戦後に描かれた千手院(長浜市川道町)の「観音讃頌」や福田寺(米原市長沢)の「初転法輪図」をはじめ湖北にも多数の作品が残されています。
また、浄土真宗本願寺派23世門主の大谷光照氏やノーベル賞受賞者の湯川秀樹氏らと親交が深く、画業は海外にもおよびニューヨークでの個展の開催など、哲郎の作品は世界で評価されています。

滋賀県立美術館、新健康協会、京都京セラ美術館、セガサミーホールディングスなどで所蔵の名品を展示いたします。

杉本哲郎の作品(左から:毘沙門天像 個人蔵/欣求西方浄土 滋賀県立美術館蔵/竹生島 新健康協会蔵/菩薩立像 セガサミーホールディングス蔵)

西田天香と杉本哲郎 両者の交流

西田天香と杉本哲郎は、哲郎の父・善郎の時代から深い繋がりがありました。長浜時代の天香を支えた人物の一人が、長浜の材木商の息子であった杉本善郎でした。善郎が長濱八幡宮(長浜市宮前町)にて主催した塾に入門したのが天香であり、北海道から戻った天香とも交流が続いたといわれます。
このように天香と哲郎の関係は、哲郎の父・善郎の時代から始まり、哲郎は、天香や天香の孫にあたる西田多戈止氏(現在の一燈園当番)とも親交を深めました。

また、天香の実家は、真宗信仰の盛んな湖北に所在する真宗大谷派来現寺(長浜市弓削町)の門徒であり、のちに南禅寺(京都市左京区)や建仁寺(京都市東山区)に参禅するなど、天香の思想は仏教をはじめとする宗教心に裏付けられています。
宗教画家と知られる杉本哲郎も、インドをはじめ各地の仏教美術を取材しています。代表作「世界十大宗教」は、仏教やキリスト教、イスラム教をはじめ世界の宗教を題材にした作品であり、長浜ゆかりの天香と哲郎の2人の思想・作品には、信仰という人類普遍のテーマが共通しています。